05
頂上の天文台は、冷え冷えとしていた。
天地の狭間に浮かぶ秘密の領域。月光が窓から差し込み、石畳に影を落とす。
部屋の中央には巨大な魔法水晶が浮かび、眩い光が空気を白く染めていた。
その光の中に立つ人物は――ノランだった。
だが、いつもの陽気さはない。冷酷さと闇が、骨の髄まで染みる寒気となって漂う。
「ノラン・カステラン?……いや、お前はエーモン・カステラン!」
一瞬の確認では即時の識別は困難なほど、二人は似ていた。
兄ノラン。弟エーモン。
同じ母を持つ兄弟にでも似ているのは顔だけで、その生き様も、理想も、夢も何もかもが対極に位置する二人。
負傷したあの女魔法使いは、片隅で防御魔法を張り続けていた。
彼女は叫ぶ。
「エーモン、もうやめて!あなたはやりすぎよ!!」
ルイースが攻撃しても、エーモンの防御魔法に阻まれる。
圧倒的な力。彼の嘲笑は冷たい。
「純粋な魔法使いの血を引いているのに、汚れた人間どもと共に戦うのか?」
「無実の人々を殺させるわけにはいかない!」
「無実だと?この世に無実の人間なんて存在しない!」
戦いは重く、息が上がり、視界が揺れる。
そのとき、影が飛び込んできた。
エーモンの攻撃を防ぎ、彼らを守る。
ノランだった。
ノランの瞳にはまだ光があった。
エーモンの瞳にも光はあった。漆黒の光が。
ノランは冗談めかして言う。
「英雄はいつも最後に登場するんだよ。久しぶりだな!」
そう言いながらも、彼の視線は戦場全体を素早くなぞっていた。
次に何が起きるかを読み、最短の手順だけを切り出す。
「防御壁は“点灯”に反応してる。四本の柱の上だ――エネルギーボールが光った瞬間に撃ち落とせ。全部消せば、壁が揺らぐはずだ!」
モグラ叩きのように点灯するボール。
焦りはミスを生む。誰かが外せば、全員の時間が溶ける。
だが彼らは協力し、声を掛け合い、二度の手順をやり切った。
防御壁が割れ、エーモンの体力が削れる。
最後に中央の呪文水晶へ攻撃を加える。
砕ける音。眩い光。崩れ落ちる防護。
そして、計画の心臓部が止まった――はずだった。
だが、三つの呪文水晶がすべて破壊された瞬間、“抑え”が外れた。
呪文水晶は単なる装置ではない。魔界の門を押し留める楔でもあったのだ。
空気が裂け、奥底から巨大な邪霊が這い出してくる。
敵味方の区別はない。暴風のような殺意だけが場を薙いだ。
そして最も近くにいたのは、エーモンだった。
長い戦闘を重ね、消耗しきった身体に、突然の一撃が叩き込まれる。
よろめき、膝が落ちる。追撃が迫る。
このままでは――危ない。
その瞬間、エーモンの手にある“カステランの魔杖”が、自ら魔法を発動した。
眩しい光が迸り、巨大な防護障壁が形成され、エーモンを守る。
「バン!」という音が響き、邪霊の攻撃が弾かれた。
ノランの声が震える。
「魔杖が自分で魔法を……母さんの魔法だ!」
エーモンの目が、ほんの一瞬、揺れた。
母が――今も自分を守っている。
その事実が、憎しみで固めた心の壁に亀裂を入れる。
だが邪霊は止まらない。
攻撃しても、HPが半分になると自動で回復し、満タンに戻る。終わりがない。
魔力が尽きていく。
あの女魔法使いは歯を食いしばり、ルイースの名を叫ぶ。
「もうダメ……魔力がほとんど尽きた……レガタス!」
そのとき、角から低い呪文が響いた。
冷淡で、鋭く、そして――悲しいほど決定的な言葉。
「白鳴の呪(ハクメイ・チャント)!」
強烈な白い光が流星のように闇を貫き、邪霊を直撃する。
たった一撃で、怪物は動きを止めた。HPが大幅に削れる。
カステラン一族の本当の力。禁忌の白鳴。
エーモンが、彼らを助けたのだ。
ノランは苦笑しながら叫ぶ。
「よし、みんな、今だ!追撃するんだ!」
彼らは残る力を集中させ、ついに邪霊を撃破した。