付録:カステラ一族の歴史
「光と闇は本来同じ源から生まれる。
魔法の極限は色によって決まるものではなく、
意志によって決まる。」
—— カステラン一族の古き訓え
カステラン家の歴史は、魔法界に秩序がまだ存在しなかった千年前の暗黒時代まで遡る。その時代、魔法使いたちは各自が覇を唱え、混乱と戦乱が絶えなかった。
この混沌の中に現れたのが、初代当主ニオ・カステラン――“夜幕の賢者”と呼ばれた男である。彼は黒魔法の扱いに長け、やがて魔法世界の中でも最も恐れられる存在へと成長する。
ニオはある禁忌の儀式によって「深淵魔素」の力を取り込み、常人を遥かに超えた魔力感知能力を手に入れた。同時に、生死の理をも左右することのできる黒魔法「白鳴咒(はくめいのじゅ)」を習得するに至る。
この魔法によって、カステラン家は他者の魂から力を吸収することすら可能となり、魔力を操る一族として黒魔法世界の頂点に君臨するようになる。
他の魔法使いたちが黒魔法を忌避する中、カステラン家はそれを「真なる叡智」として受け入れた。「魔法に善悪はない、あるのは強さのみ」という信念のもと、彼らは勢力を広げ、幾多の魔法組織との抗争を経て黒魔法界の覇者となっていった。
カステラン家の千年に及ぶ闇の歴史において、アリアの存在は間違いなく最も特別なものであった。
彼女は元々、魔法界において最も偉大な治癒術士として広く知られ、聖霊魔法、回復術、錬金術に卓越していた。その思想はカステラン家の黒魔法の理念とは根本的に相容れなかったが、彼女の名声はあまりにも高く、家族の誰一人として彼女の存在に公然と異を唱えることはできなかった。
アリアがカステラン家に嫁いだ際、家中では大きな論争が巻き起こった。多くの長老たちは、「光の魔法で名を馳せた術士が、黒魔法の名家に入るべきではない」と反発した。
しかし、当主アンセル・カステランは予想外の決断を下す。彼はアリアを妻として迎え入れただけでなく、彼女に家中で自由に魔薬や聖霊術の研究を行うことを許可したのである。
カステラン家の黒魔法の伝統そのものは変わらなかったが、アリアの存在は若い世代の一部に影響を与え、黒魔法と治癒術の融合を試みる者たちが現れ始めた。
彼女の遺した知識は密かに受け継がれ、ある者たちは彼女を「カステランの白き光」と呼ぶようになった――黒魔法の道を光の魔法で変えた、家族の歴史において唯一無二の存在として。
アリア・カステランが遺した唯一の血を引く子供、それがノランとエーモンの兄弟である。
二人は生まれながらにして、カステラン家の未来を背負う存在として期待されていたが、運命は皮肉にも彼らを異なる道へと導いていく。
ノランは幼い頃から自由を愛し、家族内の陰謀や規律を嫌っていた。次期当主として期待されながらも、成人の儀式にてその地位を自ら放棄し、独自の未来を求めて城を去る。
これに激怒した父アンセルは、ノランを家系図から除名し、カステランの姓も剥奪する。
「家族が牢獄なら、俺は放浪者で構わない」――それがノランの最後の言葉だった。
一方、エーモンは静かで理知的な性格であり、家族の期待を背負って魔法研究の道を進む。兄とは対照的に、彼は家の重責を受け入れ、最年少の魔法研究者としてその座に就く。
だが、二人の間にある深い絆――それは変わらなかった。
■ アリアと息子たちの絆:
ノランは除名された後も、城を密かに訪れてアリアに会いに来ていた。家族の誰が反対しようとも、アリアは彼の来訪を許し、彼のために食事を用意した。
「家系図に載っていようが関係ない。あなたは私の息子。それだけで十分よ。」
その姿をエーモンは静かに見守り、兄の訪問を一度も妨げることはなかった。
■ 父・アンセル・カステランの最期:
アリアが亡くなった夜、アンセルはカステラン家の禁域に足を踏み入れた。
それ以降、彼の名は一切の会議や記録から姿を消し、その行方を知る者は誰一人としていない。
「彼はもう二度と戻らないのかもしれない」――それが人々の間で囁かれる唯一の答えだった。
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■ シエル・チャーチルの登場:
アリアの死後、妹であるシエル・チャーチルがカステラン城にやって来た。
本来は自由奔放な性格の魔女であったが、ノランとエーモンを守るため、彼女は城に留まり、彼らの“師匠”となることを決意する。
特にノランに対しては「遊び道具」として昔からからかい続けており、ノランは彼女を見ると条件反射的に逃げ出す癖がある。
シエル:「ノラン君、まさか今でも私が怖いってわけじゃないでしょうね?」
ノラン:「そ、そんなわけ……ないよ? ただ、ちょっと……別の用事を思い出して……!」(ダッシュ逃走)
エーモンはこの関係に苦笑しながらも、シエルの存在が兄弟にとってかけがえのないバランスであることを理解していた。
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■ もう一人の特別な存在――ルナ・スコールウィス:
ルナはスコールウィス家の令嬢で、幼い頃から兄弟と共に育った少女である。
スコールウィス家は魔法学術院に連なる名家であり、知識と真理を重んじる家風を持っている。
ノランとは気の合う遊び友達であり、自由を愛する気質も似ていた。エーモンとは魔法の研究を共に行うパートナーとしての信頼関係があった。
ノランが家を出た後も、ルナは彼と連絡を取り続け、密かに家の情報を伝えたりしていた。
スコールウィス家とカステラン家は、学術と禁忌という相反する立場にあったが、ルナはその壁を超えてこう言い切る:
「家がどうとか関係ない。私はあなたたち自身を知っているの。」